〜ウォーキングとランニング、日本のガイドラインと最新エビデンスから〜
はじめに
「運動は血圧に良い」と言われても、どんな運動を、どのくらい続ければ効果的なのか は意外と知られていません。
2024年に発表された国際的な研究(系統的レビューとメタ解析)では、米国スポーツ医学会(ACSM)の運動推奨に沿った運動 を行うほど、血圧がより大きく下がることが示されました。この記事では、その内容を日本のガイドラインや日常生活に合わせて整理し、ウォーキングとランニングの違いや「VO₂max(最大酸素摂取量)」の活用法についても触れていきます。
運動で血圧はどのくらい下がるのか?
日本人の高血圧人口は約4,300万人。治療の基本は薬ですが、生活習慣の改善も欠かせません。
運動の降圧効果は多くの研究で実証されており、
- 収縮期血圧(上の血圧):5〜10mmHg低下
- 拡張期血圧(下の血圧):3〜6mmHg低下
が期待できます。これは降圧薬1剤分に相当する効果です。
ウォーキングとランニング、どちらが良い?
「健康のために歩きましょう」という言葉はよく聞きますが、ウォーキングとランニングには明確な違いがあります。
- ウォーキング:中強度の有酸素運動。膝や腰への負担が少なく、続けやすい。
- ランニング:高強度の有酸素運動。時間効率がよく、心肺機能をより大きく改善。
米国心臓協会(AHA)や世界保健機関(WHO)は、
- 中強度(ウォーキングなど)を週150分以上
- 高強度(ランニングなど)を週75分以上
を推奨しています。つまり、ランニングは 短い時間でも同じ効果が得られる ということです。
ACSMの推奨(世界基準)
ACSM(米国スポーツ医学会)の推奨内容は次のとおりです:
- 有酸素運動:週5日(中強度)または週3日(高強度)
- 筋トレ:週2〜3日
- 柔軟性運動:週2〜3日以上(できれば毎日)
- 時間:1回30分程度、週合計150分以上(中強度の場合)
この基準に沿った運動をしている人ほど、血圧の下がり方が大きいことが確認されています。
日本のガイドラインでは?
日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2025」でも、運動療法は強く推奨されています。
- 目安:毎日30分の有酸素運動(速歩、軽いジョギング、サイクリングなど)
- 強度は「ややきつい」と感じる程度(会話はできるが歌は歌えないくらい)
- 高齢者や持病のある人は無理せず安全に
つまり、日本の推奨もACSMとほぼ一致しています。
VO₂maxとpeak VO₂の違い
最近はスマートウォッチで「VO₂max(最大酸素摂取量)」が表示されることも増えました。これと心臓リハビリで使う「peak VO₂」には違いがあります。
- VO₂max:
- 理論上の「最大酸素摂取量」。
- 全力運動で酸素利用量が頭打ちになった点を指す。
- 若年者やアスリートでよく測定される。
- peak VO₂:
- 実際の運動負荷試験で達した「最高値」。
- 高齢者や心疾患患者では、真のVO₂maxまで到達できないことが多いため、peak VO₂を用いる。
- 日本の心臓リハビリではこの「peak VO₂」を使い、運動処方や予後予測に活用している。
つまり、スマートウォッチで見られるVO₂maxは「推定値」であり、医療現場では peak VO₂ の方が現実的で信頼性の高い指標です。
どこまで運動してよいか?
「どのくらいまで運動してよいのか?」という不安もあります。
- 基本は 中強度〜高強度 の範囲で安全に続けられる強さ
- 運動中に 収縮期血圧250mmHg以上、拡張期115mmHg以上 になったら中止
- 息を止めて力む動作(バルサルバ法)は避ける
薬を内服している方や合併症がある方は、必ず主治医に相談してください。
日本人におすすめの運動習慣
- まずは「毎日30分の速歩」 を習慣に
- 余裕があれば 週1〜2回の軽いランニング を追加
- 筋トレやストレッチ を週2回以上取り入れる
- 「ながら運動」も効果的(買い物で多めに歩く、通勤で1駅歩く、階段利用)
「歩く」ことは日本の生活習慣に組み込みやすい第一歩。そのうえでランニングや筋トレを追加すると、血圧改善効果がさらに高まります。
まとめ
- 運動は降圧薬と同等の効果を持つ「治療の柱」
- ウォーキングは安全で続けやすく、ランニングは効率的
- 日本のガイドラインは「毎日30分以上の有酸素運動」を推奨
- VO₂maxは体力指標、医療現場ではpeak VO₂が重視される
- 無理なく継続できる運動を積み重ねることが、血圧管理と健康寿命延伸につながる
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